コラム

コロナと整理解雇

労務

コロナショックによる経済危機が叫ばれる中、みなさまの中にも、様々な対策案を念頭に、事業継続戦略を練り直されている方が多くいらっしゃることと思います。
今回は、コロナ禍による業績の落ち込みから、正社員の整理解雇等を検討せざるを得なくなった場合にご留意いただきたい事項についてお伝えします。

■コロナ禍でも厳格な要件は変わらず
新型コロナについては、指定感染症からは外す方向で議論が進められるようです。しかし、すでに緊急事態宣言がなされてから痛手を負っている企業も多く、今後の景気回復も急激に良くなるとの予想はされていませんし、倒産や解雇の増加という波が時間差でやってくるとも予想されます。また、冬に向けて、新型コロナ感染者のさらなる増加や、ウイルスの変異による感染力の増強、さらに別のウイルス等による感染症の発生なども考えられます。
今は何とか持ちこたえている企業でも、企業体力や今後の情勢によっては、コロナ禍による業績の落込みから、正社員の整理解雇等を検討せざるを得なくなるかもしれません。
いくら「コロナだから。緊急事態だから」と言ってみても、裁判例上は、コロナによる業績の落込みは、天災地変等のやむを得ない事由ではなく、経営上の理由による解雇と扱われる場合がほとんどと思われます。正社員の整理解雇は、ご存じのように厳格な要件(要素)で判断されます(整理解雇の4要素)。
 

■可能な限り解雇を回避する
この4要素の一つとして「解雇回避努力義務の実行」があります。整理解雇の実施にあたっては、可能な限り雇用を確保(解雇せざるを得ない場合でも労働者の負担をなるべく軽減)するべく、取れる方策を模索し、準備しておくべきです。
・転勤・出向等による異動
・休業手当を支払って自宅待機等を命令(一時帰休、再就職支援休暇など)
・休業手当相当の退職一時金を支払い、雇用契約を合意解約
・訴訟となるリスクを考慮しつつ、退職金の上積み等を提案し、退職勧奨
というような方策が考えられます。
 

■本当に人員削減しなければならないか
2つ目の要素として「人員削減の必要性」があります。使用者は、抽象的に「経営が悪化した」と言うだけではなく、具体的な経営指標や数値をもって、どの程度経営状態が悪化しているのか、どの程度の人員削減が必要であるのかを客観的資料に基づいて説明する必要があります。
 

■整理解雇の対象者選びに合理性があるか
3つ目の要素として、「人員選定の合理性」があります。具体的には、勤務地、所属部署、担当業務、勤務成績、会社に対する貢献度、年齢、家族構成等を勘案して人員が選定されることになると思われますが、いずれにしても、恣意的な人員選定は認められず、客観的で合理的な基準に基づいて、公正に人選がなされる必要があります。
例えば、整理解雇に仮託し、労働組合を嫌悪して、組合員だけを殊更に解雇するような場合は、人員選定に合理性がなく、解雇は無効と判断されることになるでしょう。
 

■十分な説明や誠意のある競技・交渉が行われたか
最後の要素として「手続の相当性」があります。具体的には、整理解雇を実施するまでの間に、使用者は、労働組合および従業員に対し、整理解雇の必要性やその具体的内容(規模、時期等)について十分に説明をし、誠意をもって協議や交渉をしなければなりません。
なお、労働組合との間に、解雇協議条項の定めがある場合は、労働組合に対する説明や協議は必須になります。
このような個別説明等の手続を全く踏まず、抜き打ち的に整理解雇を実施することは、認められません。
 

■就業規則等の確認を
また、そうした方策をとる前提として、一時帰休の際の賃金の扱い(休業手当相当額を減額する規定)、コロナ等の事態が発生した場合の整理解雇があり得ること等は、就業規則や個別の労働契約に明記しておくことが重要です。
コロナ等による整理解雇に備え、説明資料や社員の説得のための資料なども、事前に準備しておくべきでしょう。
コロナや災害等の際の人事・労務の取扱いについて、社員からの質問等にしっかりと答えられるよう、人事・総務担当者が使えるより細かいFAQのような形でまとめておくと、会社としての統一的対応が図れ、担当者の負担も減るでしょう。
 
今回のテーマについて、または就業規則の作成・改定にご関心をお持ちの方は、ぜひCROSSROAD社労士事務所までご相談ください。

その他関連コラム