コラム

2023年度税制改正大綱による生前贈与のルール改正

税務

近年、相続税と贈与税の一体化が検討されていましたが、このほど「2023年度税制改正大綱」において、
「生前贈与加算」の対象期間を7年に拡大する内容を盛り込む方針で固めたことが大きなニュースとなりました。
今回は「生前贈与加算」の規定概要や改正点、その影響についてご紹介いたします。

 ▼国税庁 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

  https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022005-028.pdf

 

■生前贈与加算の概要と、近年の流れ

まず「生前贈与」とは、相続が発生するより前に、自分の財産を人に分け与える行為のことを指します。

こうした贈与が行われた場合、財産を受け取った側に贈与税が発生し、「相続時精算課税制度」を利用しない限り、

「暦年課税」という方法で課税することとなるのですが、この方法では1年間に受けた贈与額から110万円を差し引いて税額を計算する為、毎年この枠内で贈与を行っている限り、贈与税を納めることなく財産を受け渡すことができます。

 

ただし、贈与で財産を渡していた者が亡くなられた場合、その死亡日から遡って3年以内に行われた贈与については、「生前贈与加算」の規定により、相続財産とならない様に直前に財産を渡したもの、と捉えられ、相続税の課税対象とされてしまいます。

(この様な贈与で既に贈与税を納めていた場合、二重課税とならない様に相続税から控除されます。)

 

単純な税率と閾値でみれば、その性格上、贈与税よりも相続税の方が低いのですが、非課税枠内での贈与しか行っていないのであれば、そもそも贈与税が発生していない為、相続税の課税対象とされてしまうと、単純に損となってしまいます。

 

また非課税枠を超える贈与を行われている場合でも、贈与税は贈与を受けた者ごと、また年ごとで非課税枠を差し引いて計算するのに対し、相続税は被相続人の相続財産の合計額から税額を計算する構造上、贈与税を払ってでも贈与しておいた方が有利、というケースもあります。

 

このため、なるべく税金を掛けずに財産を他者に分け与える為には、早期から生前贈与を行い、非課税枠を活用しつつ相続財産を減らすことが特に有効とされてきました。

 

この構造には、上の世代から下の世代へ、早期からの資産移動を促す目的もありましたが、より早期から資産を移動する余裕のある富裕層ほど恩恵が大きく、上の世代の経済水準がそのまま下の世代へ引き継がれてしまい、永続的に経済格差が固定されてしまう、という意見がなされていました。

 

これに対し、所有財産に漏れなく課税することで、格差をなくす制度設計を目指す、という観点から一昨年の「2021年度税制改正大綱」で方針が発表されて以来、相続税・贈与税の一体化の検討が進められてきていました。

 

■改正点とその影響

今度の「2023年度税制改正大綱」においては、元来「諸外国を参考にしながら見直す」とされてきた相続税の課税対象とみなす遡及期間が、3年から7年へと拡大されます。1958年度の制度改正で作られて以来の為、65年ぶりのルール改正となります。

 

影響として、元々相続税が発生するだけの財産を有していた層への増税は勿論のこと、生前贈与を併用することで相続税が発生していなかった中間所得層においても、相続財産の圧縮が間に合わず、相続税の申告・納税が必要になるケースが生じてきます。

 

また、本規定での影響ではございませんが、あわせて相続税・贈与税の一体化を推し進めるため、今後想定される改定としては、現在は生前贈与加算の対象者が限られている為、この範囲の拡大であったり、相続時精算課税制度の拡大により制度の移行を促すことなどが考えられます。

 

このほか、過去の税制改正大綱にも明記されていた、他の贈与税の非課税措置の見直しも、今度の税制改正に盛り込まれることが想定されます。

 

このように、相続税・贈与税を取り巻く制度については今まさに過渡期にあり、節税対策をするには、最新の情報や動向を注視することが欠かせない状況と言えます。

相談できる専門家をお探しの際には、ぜひ税理士法人CROSSROADへご連絡ください。

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