コラム

インフルエンサーへの報酬に対する源泉所得税について

税務

近年、企業が自社商品のPRを目的にインフルエンサーマーケティングを活用することがあります。所得税法において居住者に支払う一定の報酬等が源泉徴収の対象となるか否かは、実態に基づき判断することになりますが、今回はインフルエンサーに支払う報酬に関する源泉所得税について説明します。

1.インフルエンサーに支払う報酬の源泉徴収

 企業がインフルエンサーに対して自社商品を提供し、インフルエンサーは使用した感想をSNSで発信し、その対価として報酬を受け取る事例が多くなってきています。この場合、インフルエンサーに支払うSNS投稿の対価としての報酬は、原則として源泉徴収の対象として列挙されている「報酬・料金等」のいずれにも該当せず、源泉所得税の徴収は不要となります。

 

2.インフルエンサーマーケティングとは

 今回検証する「インフルエンサーマーケティング」とは以下のような流れと仮定します。

 

【参考1】インフルエンサーのSNS投稿に対する報酬を支払うまでの流れ

 

企業が、PRしたい自社商品等をインフルエンサーに送付し、受け取ったインフルエンサーが、使用した感想等を文章や写真で自身のSNSアカウントに投稿。企業がインフルエンサーに対し、その投稿の対価として報酬を支払う、という流れです。企業は商品イメージに合致するなどの基準で選定したインフルエンサーに直接または間接に依頼し報酬を支払うケースです。

 

3.源泉徴収の対象について

 所得税法上、企業が居住者に支払う報酬・料金等のうち、【参考2】に掲げるものは、支払いの際に一定の税率で所得税を源泉徴収して、翌月10日までに国に納付する必要があります(所得税法204①、205)。報酬・料金等が源泉徴収の対象に該当するか否かは、実態に基づき判断することとなります。

 

4.源泉徴収対象の報酬等に該当するか否か

 ①「原稿料」に該当するのか?

 まずは、インフルエンサーはSNSに投稿する文章等を作成することから、「原稿料」に該当するか検討します。

源泉徴収の対象となる「原稿料」(所得税法204①一)とは、通常、執筆者から出版社等(報酬の支払者)に寄稿された原稿への対価として支払われるもので、その原稿内容は、出版社等が書籍等として販売するものを想定しています。

一方、インフルエンサーへの報酬は、インフルエンサーがSNSに投稿することへの対価であり、企業へ文章等を提出するものではありません。つまり、源泉徴収の対象となる「原稿料」は、報酬の支払者が文章等を受領して使用した対価であるのに対し、インフルエンサーへの報酬は、報酬の支払者が文章等を受領したという事実に基づかないため、源泉徴収の対象となる「原稿料」には該当しないこととなります。

 

 ②「広告宣伝のための賞金」に該当するのか?

 次に、インフルエンサーマーケティングを行う目的が商品PR等であることから、広告宣伝のための賞金に該当するかについて検討します。

源泉徴収の対象となる「広告宣伝のための賞金」とは、企業が事業の広告宣伝のために賞として直接支払う金品その他の経済上の利益のことをいいます(所得税法204①八、所得税法施行令320⑦等)。

源泉徴収の対象となるのは賞として支払われる賞金品に限定されているのに対し、インフルエンサーへの報酬は、“広告宣伝のため”と言えるものの、賞として支払われる性質ではないと考えられます。したがって、インフルエンサーへの報酬は、賞金品の性質を有しないため、源泉徴収の対象となる「広告宣伝のための賞金」に該当しないこととなります。

 

 ③「モデルに対する報酬」に該当するのか?

 インフルエンサーに依頼する発信内容の中には、インフルエンサー自身の容姿を写した写真と共に投稿してもらうこともあるため、モデルに対する報酬に該当するかを検討します。

源泉徴収の対象となる「モデルに対する報酬」とは、雑誌、広告その他の印刷物にその容姿を掲載させて受け取る報酬のことをいいます(所得税法204①四、所得税法施行令320③)。

印刷物に容姿が掲載されるケースのみが源泉徴収の対象になることから、インフルエンサーがSNSに投稿した自身の容姿の写真を使用して、企業がチラシ広告等として印刷しない限りは、インフルエンサーへの報酬は、源泉徴収の対象となる「モデルに対する報酬」に該当しないこととなります。

 

5.依頼内容によっては源泉徴収の対象になることも

 以上の検討の通り、一般的にインフルエンサーのSNS投稿に対する報酬は、源泉徴収の対象のいずれにも該当しないことになりますが、例えば企業がインフルエンサーに新商品のデザインを依頼し、その対価として報酬を支払う場合など、依頼内容によっては、源泉徴収の対象となるケースがあります。

インフルエンサーに支払う報酬については、契約や提供役務の内容を把握して、源泉徴収が必要か否かについて十分に検討する必要がありますのでご留意ください。

 

源泉徴収の判断を誤り源泉徴収漏れの指摘をされると、加算税等を追徴される可能性がございますので、

インフルエンサーへの報酬についてのご相談は、インフルエンサークライアントを多く抱える税理士法人CROSSROADまで

お気軽に相談ください。

 

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