コラム

不動産取引は消費税に注意!令和5年3月判例をご紹介

税務

とある2件の不動産売買の消費税の処理方法を巡って最高裁まで争われ、いずれも国側が勝訴する結果となりました。とある不動産売買の取引とは、賃貸中の住宅である中古不動産を転売目的で取得した際、中古不動産に係る仕入税額控除の計算上、個別対応方式における用途区分が「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」であるか、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれに区分されるかが争われた取引でありました。これらの判決の概要と最高裁の判断に至った背景等を解説いたします。

① 事件の概要

 2つの裁判の原告であるA社、B社はともに、販売目的で行った中古住宅の取得について、購入時にその全部又は一部が住宅用に賃貸されている建物(以下「本件各建物」。)の課税仕入れ(以下「本件各課税仕入れ」。)に係る消費税額について、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ(以下「課税対応課税仕入れ」)に区分して、課税仕入れに係る消費税額(仕入控除税額)を計算していました。

これに対して、被告(税務署長)から、本件各課税仕入れは、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ(以下「共通対応課税仕入れ」)に区分される。」として、更正処分を受けました。

両社はこれを不服として、この処分の取消しを求める訴訟提起に至りました。この二つの判決は、東京高裁はいずれの訴訟も地裁の判決を維持し、最高裁において争われることとなりました。

 

② 前提となる事実

 原告はいずれも中古マンションの買取再販売を主たる事業とする法人であり、否認の対象となった本件各建物を事業として購入しました。取得時に本件各建物の全部又は一部は購入時に住宅用として賃貸されており、原告である両社は引渡日以降の賃料を収受していました。原告の各課税期間における課税売上高はいずれも5億円を超えており、原告は消費税の確定申告にあたり、仕入税額控除の計算について、「個別対応方式」を採用し、本件各課税仕入れに係る消費税額を「課税対応課税仕入れ」として、仕入控除税額を計算していました。

 

 

③ 東京地方裁判所の判断

1.A社事件 令和元年10月11日(A社敗訴)

 課税仕入れをどのような用途区分と判定するかは、その課税仕入れが行われた日の状況に基づいて、客観的に判断すべきものと解するのが相当であるところ、本件各建物に係る課税仕入れが行われた日の状況において、販売に供されるとともに、一定の期間、住宅用の賃貸にも供されるものであったと認められるから、共通対応課税仕入れに該当すべき。用途区分の判定において考慮される課税仕入れの目的は、最終的ないし主たる目的に限定されるべき理由はない。

 

2.B社事件 令和2年9月6日(B社勝訴)

 課税仕入れ等の用途区分に係る判断は、その課税仕入れを行った日を基準に、事業者が将来におけるどのような取引のためにその課税仕入れ等を行ったかを認定して行うべきであり、本件各課税仕入れは専ら将来における不動産の転売のためになされたものとして課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに区分すべきものであり、本件各課税仕入れに係る消費税額は、その全額が控除対象仕入税額となる。

 

A社およびB社の事業をまとめると以下の通りです。

  • 不動産保有期間は平均6~7か月
  • 賃料収入が総収入に占める割合は小さい(5%未満)
  • 賃料収入は建物の販売価額に比して少ない(10%程度)

 

④ 最高裁の判断

1.A社事件 令和5年3月6日(A社敗訴)

 A事件に対する最高裁の判決では、原審が判示した、転売目的で、全部又は一部が住宅として賃貸されている建物の購入に係る消費税額は、共通対応課税仕入れに該当するとの判断を支持しました。

税務当局が、遅くとも平成17年以降、「本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる。」としています。

 

2.B社事件 令和5年3月6日(B社敗訴)

 B事件については、「本件各課税仕入れは課税対応課税仕入れに該当するとの原審判決を破棄し、共通対応課税仕入れに該当する。」と判示しました。

課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、事業者の事業における位置づけや上告人の意図等にかかわらず、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。

 

⑤ まとめ

 以上の通り、最高裁は、「『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』とは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。」と判示しました。

 

本件各課税仕入れは上告人が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は転売までの間、その賃料を収受したのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。

したがって、本件各課税仕入れは、その上告人の事業における位置づけや上告人の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するというべきである、と結論付けました。

 

これらの判例は原告側からの気持ちを考えると厳しい判決といえますが、消費税法の考えからすると自然な判決として考えられています。不動産売買は金額も大きく判断を誤ると納付税額に大きな影響を及ぼすため慎重な判断が必要となります。そのためこれらの判例を参考にする必要があります。

 

弊社は、顧問先に不動産売買を主たる事業とする事業者様も多く抱えております。

今回の判例は一例にすぎません。

不動産取引における消費税の取り扱いについて、判断を悩まれることがあれば、

税理士法人CROSSROADまでお気軽に相談ください。

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