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エンジェル税制の活用と令和7年度税制改正内容

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スタートアップ企業への投資を後押しする制度として「エンジェル税制」が注目を集めています。一定の要件を満たす未上場企業へ出資を行った場合に、所得控除や株式譲渡益の圧縮の優遇が受けられる制度です。1997年に創設された制度ですが、年々活用・適用しやすく制度改正が行われ、令和7年度税制改正では繰戻し還付制度が創設されたことで、さらなる活用の幅が広がりました。エンジェル税制の仕組みと本年の改正についてご紹介します。

■エンジェル税制の種類と仕組み

エンジェル税制には、主に「優遇措置A(所得控除型)」と「優遇措置B(株式譲渡益非課税型)」「プレシード・シード特例」の3種類があります。

優遇措置Aでは、その年の総所得金額から投資額のほぼ全額(上限あり)を控除することができます。一般的には株式投資の損失などを給与などの所得から差し引くことはできませんが、エンジェル税制を適用すれば所得控除を受けることができます。例えば、普段株式運用をされていない方がエンジェル投資することで、所得税を減らすことができる制度になっています。

優遇措置Bでは、エンジェル投資した金額の全額を当年度の他の株式譲渡益から控除することができます。多額の株式売却益が発生した年にエンジェル投資をすることで、所得税を減らすことができる制度になっています。

優遇措置AとBは、投資した年の所得税を減らすことができますが、エンジェル投資した株式を売却したときに課税が行われる場合があり、「課税の繰延」の一面があります。

一方、2023年に導入された「プレシード・シード特例」は、エンジェル投資した株式を売却した年度も優遇を受けることができる制度です。例えば、今年に1億円をエンジェル投資した場合、今年の株式譲渡益から1億円を控除することできます。さらに、将来エンジェル投資した株式が5億円で売却できた際も、投資額1億円を控除した4億円についてのみ株式譲渡益として課税されることになります。「投資額」を2回控除することができる制度になっています。有利な制度ですが、投資先が「試験研究費等の対出資金額比率が30%超である見込みである事業計画」を有していることなどの条件があります。

 

■令和7年度税制改正(繰戻し還付制度)

エンジェル税制は、株式譲渡益が発生した年にエンジェル投資を行う必要があり、12月などに多額の株式譲渡益が発生した場合は、短期間で「再投資先」を選定する必要があり、個人投資家にとって活用しづらい面もありました。令和7年度税制改正では、再投資した金額の全額を控除できなかった場合に、前年の株式譲渡益から再投資額を控除し、所得税の還付を受け取ることができる制度が創立されました。令和7年に株式譲渡益が発生しており、令和8年にエンジェル投資をした場合を例に挙げます。簡便的に所得税率を15%と想定します。また、エンジェル税制の対象となる株式を特定株式等と表記します。

 【取引の流れ】

令和7年 :確定申告時点※1 株式譲渡益5億円 → 所得税7,500万円の納税 

令和8年 :スタートアップ企業に3億円を再投資(特定株式等への投資)

他の株式譲渡益が1億円であった

 

この場合、令和8年の株式譲渡益1億円はエンジェル税制適用により全額が控除され、課税対象はゼロになります。また、特定株式等の控除未済額2億円(=3億円−1億円)が残っており、この2億円を「令和7年の株式譲渡益5億円」から控除することができます。差し引きすると、令和7年の譲渡益は3億円となり、令和8年の確定申告で所得税3,000万円を還付請求することができます。注意点として、※1の時点(前年の確定申告)において、特定株式等を払込みにより取得をする見込みである旨その他事項を記載した書類を添付して確定申告をする必要がある点です。エンジェル税制の税法上の取り扱いは毎年のように改正が行われています。

 

エンジェル税制に関してご不明点等がございましたら、ぜひ一度税理士法人CROSSROADにお問い合わせくださいませ。

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