コラム

個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和5年度税制改正

税務

資産所得倍増プランを汲んだ、令和5年度税制改正の発表から半年が経ちましたが、このうちNISAや不動産譲渡にまつわる改正点について、あらましをまとめた資料が先日公開されました。
今回はこのあらましに登場する各制度の概要と改正点、その影響をポイントを絞ってご紹介いたします。

▼国税庁 個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和5年度 税制改正のあらまし

  https://www.nta.go.jp/publication/pamph/joto-sanrin/r05aramashi.pdf

 

■株式等を譲渡した場合の特例等

① NISAに関する改正

家計の金融資産所得拡大・企業成長を促進するために設けられたNISAですが、さらなる活用を促すため、次の3点を軸に令和6年より新たな枠組みへと改組されます。

 

・口座開設可能期間の恒久化

・年間投資上限額、非課税になる保有限度額の拡充

・非課税保有期間、投資可能期間の無期限化

 

令和2年度改正で予定されていた2階建て型ではなく、恒久型への移行となっています。

なお、移行までに現行のNISA制度で投資した分は、新制度の外枠で非課税となります。

 

② 「エンジェル税制」に関する改正等

スタートアップ企業へ投資を行った個人投資家に対し、税制上の優遇措置を行う制度ですが、従来は譲渡所得から控除した額を、投資した年から売却した年へと課税を繰延べるに留まっていた所、投資した年に控除した額のうち、20億円を超える部分だけが繰り延べられる様になりました。つまり、一定の要件を満たすスタートアップ企業への投資利益については、20億円まで非課税となりました。

また、株式譲渡で得た利益を元に個人が起業した場合も、同様の優遇を受けられる特例が創設されました。

このほか、適用対象企業となるかの株式要件や、書類添付の要件も緩和がなされています。

 

③ 株式等の譲渡に関するその他の改正

前者2つほどの大きな改正ではありませんが、次の改正点も取り上げられています。

 

・時価1億円以上の証券を持つ方が、国外転出や非居住者へ贈与された際、所得税が課されますが、納税を猶予するために非上場株式や持株会社の持ち分を担保とする場合の、手続きが簡素化されました。

 

・自社株を対価とするM&Aでの活用を想定した、株式交付における所得計算の特例について、オーナー企業等における私的な利用を抑制するため、適用範囲が見直されました。

 

・税制適格ストックオプションについて、設立5年未満・未上場のスタートアップ企業が付与するものは、権利行使期間が10年から15年へと延長されました。

 

■土地・建物等を譲渡した場合の特例についての改正

① 居住用財産の譲渡所得の特別控除

相続により承継した空き家を譲渡した場合、譲渡所得の控除が受けられる制度について、この要件が緩和される一方で、特別控除額が縮減したうえで、制度の適用期限が延長されました。

 

・従前は、譲渡前に、売主が耐震工事や家屋の除却を行う必要がありましたが、譲渡する年の翌年2月15日までに、買主が耐震工事や除却を行った場合も適用可能になりました。

 

・空き家を取得した相続人の人数に応じて控除額が変わり、2人以下では3,000万円/人で変わらず、3人以上では2,000万円/人に縮減しました。

 

なお、相続税額の一部を取得費に加算できる、「取得費加算の特例」とは選択適用になるため、引き続き、注意が必要となります。

 

② 特定の事業用資産の買換えの場合

事業に供している特定の資産を買い換えた際、譲渡で生じた差益への課税を繰り延べられる制度ですが、適用期限が延長される一方、一部資産の要件が見直されたり、本店資産を買い換えた場合に繰り延べられる割合が変更されたパターンがあります。

また、後付けで資産の譲渡・取得を紐づけするケースを防止するため、届出書の提出が一定期間内に求められる様になっています。買換えをした事業年度中の提出が必要なケースもあるため、留意が必要です。

 

③ 土地・建物等の譲渡に関するその他の改正

こちらも前述の2つほど大きな改正ではありませんが、次の改正点も取り上げられています。

 

・一定の建築事業や宅地造成、住宅地造成事業のために、長期所有していた土地を譲渡した場合、譲渡益に掛かる税金が軽減される制度について、対象事業が縮小されつつ、適用期限が3年延長されました。また、三大都市圏の地上3階以上の建築物を買い替えた際に、譲渡で生じた差益にのみ課税される制度も同様に対象の事業範囲が縮小されました。

 

・長期所有していた未利用地を500万円以下で譲渡した場合、最大100万円の所得控除が受けられましたが、 譲渡後の用途がコインパーキングの場合には適用不可になった一方、一定の区域内であれば800万以下まで対象となる様に拡大の上、適用期限が3年延長されました。

 

各特例の活用にはより細かな規定・留意点もございます。

適切な運用を相談できる専門家をお探しの際には、ぜひ税理士法人CROSSROADへご連絡ください。

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